インタビュー
ピアノデュオをやるからには、『ピアノデュオ道』を極めたい。
結成五年目にしてデュオ名が決まる
――リサイタルは何回目になるのですか?
藤井 自主リサイタルは三回目です。依頼されるリサイタルもありますが、自主的なリサイタルも二人で長く続けていきたいと思い、今回から急に『第三回定期公演』というタイトルをつけました(笑)。
白水 特に『定期』という言葉にこだわる必要もなく、次はいつときっかり決めてやるわけでもないのですが、この活動を今後もずっと続けていく意思表示ということで。
藤井 今回は『ドゥオールDeu’or』というデュオ名を付けてから、初めての自主リサイタルでもあります。この名前は今年の一月に決まったんです。
デュオ名はずっと欲しいと思っていて、家族や友達に相談したり、ホームページ上でも募集したりしたのですけれど、いい名前がなくて、なかなか決まりませんでした。
そしたら本当にひょんなことから知り合いになった作家の方に、ヘブライ語の『オール』(光)を使ったらどうか、と言われて。
そして『ドゥ』はフランス語の『2 deux』。この二つを組み合わせて作った言葉なんです。
白水 『オール』というと、いろいろな意味がありますよね。例えば漕ぐオール(oar)。いつも対になっていて、二つないと漕げないという。
藤井 あとはall。『ドゥ』二人から『オール』皆さんへ。二人(deux)が船のオール(oar)のように対になって、光(ヘブライ語のオール)のように皆さん(all)に音楽を届けたい・・・そんな深い意味が込められています。
白水 そういう日本語の言葉遊びみたいな感じで出来た、完全な当て字なんです。 次に綴りはどうしようということになったのですが、フランス語でオールというと『金or』という意味になり、それは仰々しいなと思ったので、あえて『 ’(コンマ)』を入れて、そういう印象を与えないようにしました。
藤井 Deu’orは見ても聞いても『何だろう?』って思われると思います。でも『何だろう?』って考える名前の方が、覚えて下さるかなと。
・・・というわけでデュオを結成して五年目にして、やっと名前が付いたわけです(笑)。
デュオ名があった方が、ソロとの活動と明確に区別ができていいかなと思っています。
前半はドイツもの 後半はフランスもので
――それではプログラミングのことを伺います。
白水 去年の六月のリサイタル後、『次はレーガーとラヴェルをやりたいね』となったんです。で、これらを軸にしてどうプログラミングしていこうか考えました。
藤井 レーガーのピアノデュオの作品は意外とあるんです。でもなかなか演奏会で弾かれることがない。音がものすごく多くて緻密、一声一声が建築物のように積み重なっているんです。今回は『ベートーヴェンの主題による変奏曲とフーガ』を演奏しますが、技術的にもアンサンブルという意味でも、演奏する大変さを実感しています。
僕らの留学先のドイツ・マンハイム近郊にレーガー協会という団体があり、その辺りではレーガーを普及させようということで、結構演奏されていました。僕らも『6つのブルレスケ』という連弾曲を演奏したことがあります。ですからレーガーを弾くことに抵抗はなく、逆に『弾いてみたい、やってみる価値がある』という感じでした。
白水 ラヴェルの『ラ・ヴァルス』は、オーケストラでもピアノ編曲版でもよく演奏される曲ということで選びました。
で、ブラームスの『大学祝典序曲』は、オーケストラ曲を発表する前に、連弾で演奏してサロンコンサートでお披露目したという習慣が当時あって、私たちもサロンで紹介したブラームスのように再現できたら・・・と思っているんです。
藤井 この『大学祝典序曲』、連弾で弾くのは珍しいと思います。楽譜もなかなか手に入らなかった。あと指揮者の方に言わせると、この曲って序曲の割には比較的長いし、体力も使うらしいです。そういう曲をリサイタルの出だしに弾くのは大変だよって言われました(笑)。でもブラームスとレーガー、同じドイツものなので、流れから見てもいいかなと思って。
――ではメシアンは?
藤井 僕たちはずっとドイツにいましたが、もともとフランスものも好きだったんです。今年はメシアン生誕百年ですが、記念の年だからというよりも、自分達の意欲の表われ、プログラムの流れで決めました。
今回演奏する『アーメンの幻影』は全曲弾かれることも多いですが、今回はあえて二曲を取り出してラヴェルの『ラ・ヴァルス』と組み合わせ、後半の一つの流れを作ってみました。曲の長さ、バランスがいいんです。
白水 私はドイツにいた頃、メシアンをソロでも勉強しました。メシアンには、構成の面白さというものがあります。緩急も絶妙だし、弾いていて楽しいですね。デュオとしては今回が初挑戦になります。
藤井 メシアンは現代曲だから分からないと思われそうですけど、同時代を生きた人なので、皆さんも感覚的に、自然にスッと入っていけるのではないかと期待しています。
ちなみにこの曲は、メシアンの奥さんであるイヴォンヌ・ロリオが第一ピアノ、メシアンが第二ピアノを想定してかかれています。初演もお二人でされて、楽譜の最初には『ここで弾きました』という記述があり、それを見ても、本当に最近の作品なんだなと感じることができます。
白水 第一の方は技巧的で華やか、主に高音部を受け持ちます。
藤井 で、第二の方はオルガン的。どっしりした響きが求められます。まあ僕たちの場合は逆で、僕が第一で彼女が第二(笑)。でもこれが僕らのデュオのスタイルですから。
二台ピアノは調律にも時間がかかる
藤井 帰国直後の頃は、プログラムは自分たちの自己紹介のようなものでした。『僕たちはこれだけのことをやります!』といったような。振り返ると、第一回目の自主リサイタルの時なんか、やりたいものをごちゃ混ぜにした感じ(笑)。
しかしそのうち、聴きやすさ、ストーリー性、流れなどからプログラミングするようになりました。どういうコンセプトでステージを組みたいかと訊かれることが多くて、いろいろ考えるようになったんです。
そういうことも含め、舞台を作るというのは並大抵のことではないと感じています。特にデュオの場合は、現実的な問題も結構あって・・・。ピアノが二台必要なのはもちろん、会場の大きさや調律時間のことも考えなければなりません。一人の調律師が二台見るとなると、昼間の公演はかなり厳しくなるし。
――なるほど。それだけ時間がかかってしまうのですね。
ところで、ピアノを選択する時点で揉めることは?
藤井 結成する前からの付き合いですから、特に揉めることもなく、自然とどっちかに分かれますね。
白水 でも、音楽上のぶつかりあいは以前より増えたんです。今まで仲裁に入っていた先生という決定的な存在がなくなった分、例えば終わり方をどうするかとか、間はどうするかとか、そういったことで。
その代わり、演奏を録音して二人であーだこーだと話し合ったり、友達に聴いてもらったりする機会が増えました。その中から、また新しい関係が生まれてくるのかなと感じています。
藤井 やはり学生の時と違って、お金を出して聴いていただくわけですからね。自分たちの信念としても、ピアノデュオをやるからには『ピアノデュオ道』を極めたいので(笑)、納得できるところまで高めたいとは常に思っています。
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