06/08
「暑くなってきたぞ〜〜!!」
ここマンハイムの我が家の目の前には、大きな大きな木がそびえたっており、西日なども入らないため、ライン川とネッカー川に挟まれた湿気の多いマンハイムの夏でも、比較的この家の中は涼しく、快適に過ごすことができます。
室内ではあまり外の気温がわからないため、僕はこの時期でも半そでの上にハーフコートといういでたちで外に出ようと、建物から一歩足を踏み出したその瞬間、「・・あ、暑いじゃないか〜!」と、その直射日光と暑さにくらくらし、
初めてこのときに「ああ、夏が来た」と実感するのです。
春のにおいを体で感じ、花粉到来を肌でちくちく感じながら、なかなか暖かくもならず、急に寒くなったりお天気が優れなかったりするうちに、こうしていつも突然、夏は訪れます。
先々週はヨーロッパ中が急に真夏に突入したかのように、大変暑い日々が続きました。ここマンハイムでは、5月の観測史上最高気温である34度を記録したとかで、「このままいくと、8月は50度になるらしいぞ。わーはっはっは」
というドイツ人の会話の中を、「・・そんな訳ないだろ」と思いながら通り過ぎたものですが、この暑さを肌でじりじり感じると「ああ、今年の夏はどうやって乗り切ろうかな」と考えます。
旅行などでヨーロッパを訪れた方は、冬の暖房設備がきちんと整備されているのに比べ、冷房設備があまり整っていないのにお気づきでしょう。カフェやレストランの窓に「Air
Conditioned (冷房、入ってます)」なんて、日本から見れば当たり前のことが、どうだ!といわんばかりに書かれているのを見かけた方も、多いのではないでしょうか。
僕がドイツに来た1999年から比べると、今は冷房の入った大型店やお店、カフェは増えましたが、それでも完備されていない店もまだまだ多いように思います。僕が来た当時より格段の進歩を見せ、電気屋さんの店頭で最近よく見かけるのが、「冷風機」とでもいうのでしょうか。機械の中に水を入れて、そこから送られる風で部屋を涼しくしましょう、赤ちゃんにも安心 というもの。
でもその機械もまた大きくて、ドイツの物価から考えると高額であり、ドイツではこういったものの需要があまりないから高いのか、ドイツの省エネのためにわざわざ機械を大きく重くして、買わせないようにしているのか、僕にはわかりません。
では扇風機がほとんどの家庭にあるかといえばそうでもなく、「夏→ 暑い。終わり。」のような図式が出来上がっているようにも思えます。
それでは中から涼しくなりましょうということで、5月にもなると街のいたるところで「Eis」「Eis」(日本でいう、アイスクリームのことです)といった看板を見つけることができます。
その昔、僕も暑さしのぎにふらふらとアイス屋さんに近づき、毎日のように食べ、アイス屋のハシゴまでしたものですが、食べたところでそれほど涼しくなるわけでもなく、ドイツでの生活が7年目にもなるとついに、暑さしのぎのためだけにはなかなか足が向かなくなりました・・。
はたまた僕の好きなプールに行けば、ただ水につかっているだけのおじいちゃん、おばちゃん、いちゃいちゃしているカップル、水をばちゃばちゃかける子供が急増し、思いっきりクロールで泳げずに、俺は何しにここに来ているんだか・・と夏限定 亀のような遅さの平泳ぎでプールでの時間をすごすことになります。
この暑さが一番こたえるのが、何より練習時間です。
ドイツ(のみならずヨーロッパ)に留学されている、されていた方は、こちらの人々が音に異常に敏感であり、音楽家といえば音漏れで近所との問題を抱えていることはすぐに理解できるでしょう。
この問題、どこに住んでいても、僕ら音楽家にとっては永遠のテーマですね。
僕の住んでいる建物は有り難いことに、ご近所のご理解のおかげで、家でピアノを練習できる環境なのですが、それでも音が漏れないようにかなり神経を使っています。
音漏れに関しては、建物の立地条件や個人の考え方、価値観によってその対策も大きく変わると思いますが、例えば僕の場合は・・・
まずグランドピアノの底の部分(腹の部分というのでしょうか)に、毛布を画鋲で止め(ごめんね)、その下には布団などをなるべく高く積み上げ、ピアノの3本足にはそれぞれ吸音マット。ピアノのふたは閉めたまま、もう一枚毛布をかけ、床は吸音材の上にじゅうたんを敷き、部屋の中にはできるだけ多くの洋服、上着類、そして2枚のマットを置き(吸音のためです)、ドアとドアの隙間には、これも吸音のためにゴムシートのようなものを張り、練習している間、雨戸(Rolladen ローラーデンという巻き上げ式ブラインドで、雨戸のような役割です)は、もちろん閉める。
とまあ、何とも密閉された、暑苦しい空間の中で練習をすることになります。
とは言っても、こちらの建物や部屋の中では、音が本当に良く響きますので、これくらいした方がかえって耳にも心地よいと感じています。
これだけ音楽家、音楽家を目指す学生の多いドイツ、ヨーロッパで、どうして日本にあるような防音室、または音楽家専用の防音設備の整ったマンションのようなものがないのかが疑問なのですが、問題の大小はあるにしても、みなさん最終的には、それぞれが練習できる何らかの環境に落ち着くようです。
いずれの場合も「ご近所の理解」、これが大前提です。
そして音楽家の涙ぐましい防音対策も、ご近所に対する感謝の気持ちの表れであると言えるでしょう・・。
さて、我が家の練習室では、小さな扇風機が「ブーン ブーン」と回っているだけで、それもただ暑い空気をかき回しているだけですから、酷暑の中での練習は本当に堪えます。
今でも覚えているのが、ヨーロッパ中が大変な猛暑を記録した年のことです。それは一昨年だったと思うのですが、たくさんの方が亡くなるなどの被害が出るほど、恐ろしく暑い夏でした。
・・寝ているときから脳みその芯までがどんどんやられていくような感覚に陥り、家での練習中もボーっとしたままで、気がつけば冷蔵庫に頭を突っ込んでいたりして、「こりゃ、相当きてるわ」と自分で思った8月のその日、マンハイムは気温42度を記録し、街中がどろどろに溶けて見えていたことを思い出します。
学校での練習も暑さは同じことで、ちょっとでも学生が窓を開けて練習をするとすぐに、近所から苦情の電話がかかってくるらしいので(ひまな、お人です)窓を閉め切って練習するのですが、少々日光の入る部屋ですら、本当に倒れるくらいの暑さになり、日本での大学時代に、大学内の冷房の入った部屋で「あっついなあ・・」と練習していたことを、今となっては何と贅沢な・・と思い返しています。
ただでさえ仕事のペースがゆっくりなドイツ人も、顔に「暑いから仕事ができません」と書いてあるが如く更にのろのろになり、この国には何か、暑さ対策の改善案というものはないのか、とつくづく思ってしまいます。
例えば僕は、日本には各部屋にクーラーがあり、夏でも涼しく、仕事だってはかどるんだよ → 「おお!それは、何て素晴らしい国だ!!」というドイツ人の反応を期待するのですが、大抵の場合 →
・・それはー、電力、資源の無駄遣いであり、昔のドイツは夏に暑いといってもほんの数日だけであった。夏の暑い日だって1年で見れば、ちょっとの期間じゃないか。そもそも、今現在のこの暑さは地球が温暖化しているからだ。君たちの国が、暑い暑いとみんながクーラーを持つようになるから、もっとひどくなっているのではないか、と言われる始末・・。
ちなみに、ドイツのエレベーターに「閉」ボタンがほとんどないのも(一度見てみてください!)、「閉」ボタンには大変な電力がかかるからだ、と聞きます。
今マンハイムでは、ついこの間の暑さがまるでなかったかのような、晴天ながらも涼しい日々が続いています。
暑い、寒いを繰り返し、夏本番に突入していくようですが、ドイツの夏は短く、マンハイムは8月になると既に、日本より早く秋の訪れを感じるようになります。
夜は22時くらいまで明るく、昼間の暑さの後に来るからっとした夜の涼しさは、この時期ならではの心地よさ。
この季節を楽しまない手はありませんね。
藤井隆史
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